向かいの家が空いて、若い夫婦が引っ越してきた
耳聡いカミさんによれば、元々その家を買った人が海外だかにいて、戻ってくるというのだ
借りていた前の人が出ると、大きなトラックがやってきてあっという間に引っ越しが終わった
いい人だといいなあなどと思っていた
その夜に、カミさんがゴミ出しから帰ると、こう言った
今、ちょうどあのお宅のところに車が停まってて、中に女の人がいるから、会釈したんだけど、なんか反応がないのよ、男の人の方は外にいて、こんにちはって言ったんだけどね
それにすごく若いの
ふうんと僕は言った
そんなに若いのか、若い人はあまり近所付き合いとか苦手かもなとか思ったりもした
翌日の夕方、カミさんが庭の木に水やりをした後、またこう言った
今、あの旦那さんに会ったらね、昨日お会いしましたね、このお家の人とは知りませんでした、今までこの家は貸していたんですが、今度住むことになりまして、ただ、また近いうちに引っ越すかもしれません、いずれ二人で挨拶に伺いますだって
また僕はふうんと言った
初めての人に不思議なことを言う人だなあ、海外生活のせいかなと思ったりした
その次の日の夕方、その若い夫婦が挨拶にやってきた
僕は二階の狭い自分の部屋で小説を書いていたのだが、カミさんの声で呼ばれ、下着にパジャマという出立ちを急いで着替え、髪と髭はぼうぼうのまま、玄関に向かった
彼らは驚くほど礼儀正しく、爽やかで、親しげな雰囲気を持った若い夫婦だった
聞くとインドネシアで仕事をしていたと言う
家は、ご両親が買ったもので、その両親はまだ海外にいるらしく、一足先に帰国した自分たちが一旦ここに住むことになったと、ただ自分たちの家を他で買って、一年ほどでまた引っ越すかもしれませんと言った
カミさんが自分たちには娘がいてこうなってああなってと色々喋り、年齢の話になったら、彼らがまだ30歳にも満たないことがわかった
そうか、先日、結婚の挨拶に彼と家に来た三女より年下なのかと少し驚いた
改めて自分たち夫婦が歳をとったと思った
輝くばかりの若い夫婦が僕の目に眩しく映った
限りない未来を感じた
そして、それを羨ましく思うのと同時に、なんて言ったらいいのか、喜ばしいというのか、心が沸き立つような思いがしたのだ
この世は続いている
これからもずっと
そんな感じの思いだった