めいそうえっせい

色々と心のままに

あの爺さんに会った

僕は一昨年春に定年退職してから、居場所を確保しようと、築50年ほども経つ風呂なしアパートの六畳一間を借りた。

売れない若手芸人が住むような所だった。

大きな地震でも来たら一巻の終わり。

そこで一年だったか、一年半だったかを過ごした。

一階に、爺さんが独りで住んでいた。

昼間の数時間を過ごす僕と違い、爺さんはちゃんと住んでいた。

後期高齢者であることは間違いない。

ランニングシャツにステテコ姿の爺さんは部屋の前でぼろぼろの自転車を手入れだか、修理だかをしていた。

何度か挨拶すると、立ち上がり満面の笑みを返してくれた。

あれから、一年ほど経つが、今でもたまに行くアパートの近くのドトールで、あの爺さんに会ったのだ。

と言っても見かけただけなのだが。

爺さんは、たぶん友達なのだろう、同じような爺さんと真向かいに座ってお喋りしていた。

驚いたのは身なりで、若々しい赤と青のチェックのシャツに、デニムを履いていた。

しばらくして二人とも去って行った。

 

僕はなんだか嬉しくなった。