愛車を盗まれた
愛車とは自転車だ
あの瞬間をどう表現したらいいのだろう
鳩が豆鉄砲を食ったよう?目が点?茫然自失?青天の霹靂?
まあ、なんでもいいが、とにかく僕は置いたはずの場所に愛車がないことに、声も無くしばらく立ち尽くしてしまったのだ
もちろん僕に責任がある(盗んだ誰かは別にして)
いつもはロックのかかる自転車置き場に置くのだが、その日ばかりは、なぜか満車で、いや正直に言おう、一つだけ空いていた
ただ両隣が切迫して置きづらいと思ってしまった
以前に一度だけ置いたことのあるお店の横(他にも数台停まっている)にポンと置いた
僕の愛車とはビアンキのプリマヴェーラというママチャリでとても古いモデルだ
定年して自転車を買うにあたり、色々あって(長いので省く)、ヤフオクで落としたもので、送られてきた当初はボロボロのものを、修理し、必要な部品や自分好みのパーツに交換し、さらに前かごを工夫して取り付けた
こだわりの愛車だった
で、思いのほか、心に衝撃だったことに僕は驚いたのだった
僕はあまりモノに執着する方ではない(と思っている)
よほど思い出の品とかは別だが基本的にどんどん捨てられる
なぜこんなにショックなのか考えてみた
あいつ(あえて愛車をそう呼ぶ)は僕の手元を去った
この世では形あるものはいずれそうなる
理由がどうあれあいつは去った
それは必然であって、去ったものはしょうがない
最初はそう思っていた
ところがあいつのこれからが気になった
大切にされているだろうか、バラバラにされて部品として売られていないだろうか
そんな思いが離れない
ずっと離れなかったのだ
そして昨晩、多分夜中だと思う
ふと気付いた
あいつはあいつでやっていくさ
心配しなくていいよ
僕は僕で自然体でいればいいさ
これは起こるべくして起こったのであって僕にとってもあいつにとっても必要な変化だったんだろう
それを自然体で受け入れればいい
そう気付いたらスッと心が空っぽになった
その後表現のしようのない幸せな気持ちがやってきた
僕は僕で生きていくよ、大丈夫